- 著者: 浅田 次郎
- タイトル: 珍妃の井戸
前作「蒼穹の昴」 は激動の中国・清末を描く大河であり
ミステリーであり、ヒューマンドラマだった。
日本の中国歴史小説はともすれば読者ウケの良い
決まった時代に偏りがちであったが「蒼穹の昴」は清末という
ほとんど未踏の地を開拓することに成功した。
本作品はその続編、あるいは後日談である。
「蒼穹の昴」の知識がなくてももちろん読めるが、事前に読めば
4倍楽しめることを保証する。
義和団の乱の混迷の中、何者かに殺され井戸に沈められた
清国皇帝光緒帝の最愛の妃、絶世の美女、珍妃。
その謎をめぐり、英・独・露・日の各大使が当事者の
証言を訪ね歩き、至った真実とは・・・
推理・ミステリー仕立てにはなっているが、やはり一流の歴史小説。
西欧や日本に蹂躙された中華帝国の残滓が焼きつく。
珍妃暗殺の真実を知った者が手にするのは、犯人をつきとめた
達成感ではなく、喪失感。どうしようもなく狂った歴史の中で
正義はどこにあるのかという憤りだろうか。
もちろんこの話は作者の推論。だが本場中国でも彼女の死を
めぐっては諸説あるという(中国の友人談)
ともあれ、型にはまったミステリーに飽きた人、同じことを繰り返す歴史小説に
うんざりした人にはおススメの書である。